カテゴリー: コラム

  • AIが紡ぐ未来のものづくり

    AIが紡ぐ未来のものづくり

    2025年、大阪・関西万博の閉幕が目前に迫る中、多くの人が「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマに触れ、テクノロジーがもたらす未来の可能性を肌で感じたことでしょう。
    特に、様々な展示ブースで体験できたAI技術は、私たちの生活だけでなく、日本の基幹産業である製造業にも大きな変革の波をもたらしています。

    AIは、ものづくりの未来をどのように形作っていくのでしょうか。

    製造業におけるAI活用の現状と戦略的意義日本の製造業は、長年にわたり経済成長を牽引してきましたが、グローバルな競争激化、技術革新の加速、そして少子高齢化による労働力不足といった大きな課題に直面しています。
    こうした背景から、AIの導入はもはや業務効率化の手段ではなく、企業の競争力を左右する不可欠な取り組みへと変化しています。

    総務省によると現在の日本におけるAI導入率は、製造業全体で19.0%と、産業全体の平均13.5%を上回っていますが、米国と比較するとまだ発展途上と言えます。
    多くの企業は、AI導入の目的を「業務効率化」「課題解決」「人手不足の補完」としており、特定の課題に焦点を当てた導入が進んでいるのが現状です。
    AIを導入した製造業の83.1%がその効果を実感しているという調査結果もあり、導入後の効果は高く評価されています。

    AIは、以下の3つの主要な課題を解決するために不可欠な技術とされています。

    1.労働力不足と技術伝承の課題
      少子高齢化により熟練技術者のノウハウが失われるリスクが高まる中、AIは熟練者の作業をデータ化・継承する仕組みを構築することで、この課題を補完します。
    2.競争激化と変動する需要への対応
      AIは生産プロセスを最適化し、高度なデータ分析によってコスト削減に貢献します。
      また、需要予測や生産計画の自動化を通じて、多様化する消費者ニーズへの迅速な対応を可能にします。
    3.カーボンニュートラルへの対応
      AIはエネルギー消費の最適化や製造プロセスの効率化により、環境目標の達成に貢献します。

    生産管理におけるAI活用の具体的な変革

    製造業におけるAI活用の核心は、生産プロセス全体の「最適化」です。
    AIは、過去の膨大なデータを高速で分析し、人間の判断や経験に依存していた領域に革新をもたらしています。
    具体的な変革例をして以下のようなものがあります。

    1.需要予測と生産計画の高度化
      AIは、過去の受注データや市場動向など多様なデータを総合的に分析し、高精度な需要予測を可能にします。
      これにより、過剰在庫や品不足のリスクを大幅に抑え、最適な生産計画を策定できるようになります。
      すでに、ある飲料メーカーでは、AIを活用した生産計画立案システムを開発し、複数名で多くの時間を費やしていた計画策定作業を大幅に短縮するこ
      とに成功しました

    2.サプライチェーンのリスク軽減
      AIによる予測分析は、サプライチェーン全体のリスクを早期に発見し、物流戦略を迅速化する上で重要な役割を果たします。
      サムスンはAIを活用してサプライチェーン上のリスクを早期発見し、物流戦略を迅速化しました。
      さらに、製造、調達、出荷の各プロセスをデジタルツインでトレースし、全体最適化を図る事例も報告されており、不測の事態が発生した際にもサプライチェーンの混乱を最小化する方策を導き出すことが期待されます。

    3.品質管理・検査の自動化
      AIの画像解析技術は、製品の外観検査を高速かつ高精度に自動化します。
      人間が見逃しがちな微細な不良も検知できるため、作業者の習熟度や体調に左右されない均一な検査品質が維持可能です。
      さらに、AIは不良品の発生原因を特定し、製造プロセス全体を最適化することで、不良品そのものの発生をゼロに近づける戦略を可能にします。

    4.設備保全・予知保全
      AIは、設備に取り付けられたセンサーからのデータをリアルタイムで解析し、正常な状態のパターンを学習します。
      これにより、わずかな異常の兆候を捉え、故障が発生する前に保守の必要性を予測できます。

    製造業における未来展望と戦略

    従来のAIが既存データの分析に基づく「最適化」に主眼を置いていたのに対し、生成AIの台頭は、その役割を「創造」へとシフトさせています。
    生成AIは、材料や製造方法の制約を入力することで、人間では思いつかないような革新的なデザイン案を自動で生成する「ジェネレーティブデザイン」を可能にします。
    これにより、新製品開発のリードタイム短縮や試作コストの削減が期待できます。

    また、AIの普及は、製造業における人間の役割も変えつつあります。
    AIはルーティン業務や反復的な作業を代替し、人間はより複雑な判断や創造性が求められる高付加価値業務に集中できるようになるでしょう。
    この変化に対応するため、企業は従業員に対する継続的な教育や研修を通じて、AIの出す複雑な判断や提案を理解し、業務に活かすことができる「AIリテラシー」を持った人材を育成する必要があります。

    AI導入を成功させるためには、以下の3つのステップを踏むことが重要です。

    1. 目的の明確化
        AI導入の前に、解決すべき経営課題を明確にします。
    2. スモールスタート
        いきなり大規模な投資を行うのではなく、特定の業務から小規模なPoC(概念実証)で開始し、成功体験を社内に蓄積します。
    3. 人材と組織への投資
        継続的な従業員教育や外部リソースの活用、そして経営層によるビジョン発信を通じて、AIを使いこなせる組織文化を構築します。

    AIは、もはや単なる製造プロセスの改善ツールではなく、新製品・新サービス開発のプロセスそのものを再定義し、企業の競争力の源泉を強化する戦略的なツールへと変わりつつあります。

    万博が提示した未来社会のビジョンを現実のものとするため、日本の製造業はAIとの協業モデルを構築し、持続可能な成長を目指すべきだと思います。

  • その斧、研いでいますか?——「木こりのジレンマ」から学ぶ、製造業DX成功の鍵

    その斧、研いでいますか?——「木こりのジレンマ」から学ぶ、製造業DX成功の鍵

    私たちの仕事や生活は、常に大小さまざまなジレンマと隣り合わせています。
    「デジタル大辞泉」によれば、ジレンマとは「二つの相反する事柄の板挟みになること」。
    思うように物事が進まず、いらいらするような、あの「もどかしい」感覚です。

    有名な寓話に「木こりのジレンマ」があります。

    ある日、旅人が森を歩いていると、一人の木こりが汗だくで木を切り倒そうと懸命に斧を振るっていました。しかし、なかなか作業は進みません。

    その様子を見ていた旅人は、こう声をかけます。 「もしもし、少し手を休めてその斧を研いだ方が、もっと楽に、そして速く木を切れますよ」

    すると木こりは、いらだった様子でこう言い返しました。 「見ての通り、木を切るのに忙しくて、斧を研いでいる暇なんてないんだ!」

    この話は、日々の業務に追われるあまり、本質的な生産性向上策に目を向ける余裕を失ってしまう状況を的確に描き出しています。「頑張っているわりに成果が出ない」——この木こりの姿は、現代のビジネス、特に多くの中小製造業が抱える課題と深く重なります。

    製造現場に潜む「木こりのジレンマ」

    システム導入に関するご相談の場で、この寓話と同じような場面に何度も遭遇してきました。非効率な手作業、形骸化したプロセス。改善の必要性を感じつつも、お客様から返ってくるのは決まって「現状の業務で手一杯で、新しいことに取り組む時間も人もいない」という言葉です。

    これは単なる優先順位の問題ではありません。木こりに「斧ではなく、最新のチェーンソーを使うべきだ」と力説しても、おそらく彼は首を縦に振らないでしょう。彼の中には長年培ってきた斧への愛着や、「自分のやり方」に対する自負があります。チェーンソーという未知の道具が、本当に自分の仕事を楽にしてくれるのか、その騒音や複雑さが新たな問題を引き起こさないか、といった疑念が先に立つのかもしれません。

    ここには、「現状維持バイアス」と「コンフォートゾーン(快適な領域)からの変化への抵抗」という、人間が本能的に持つ心理的な壁が存在します。
    製造業のお客様も木こりも、これまでの自分の頑張りや仕事のやり方を否定されること、そして長年の習慣を変えることに強い抵抗を感じるのは、ごく自然なことなのです。

    「小さな成功体験」が変革の扉を開く

    では、どうすればこのジレンマを乗り越えられるのでしょうか。 鍵となるのが、経済産業省がDXレポートで提唱する「協調領域」と「競争領域」という考え方です。

    • 協調領域: 勤怠管理、経費精算、Web会議など、他社と差別化を図る必要のない共通業務。
    • 競争領域: 自社の独自技術、ノウハウ、顧客との関係性など、企業の競争力の源泉となる中核業務。

    DXレポート2では、まずこの「協調領域」で変革の成功体験を積むことの重要性が語られています。例えば、「これまでIT導入に全く興味がなかった社長が、Web会議の便利さに気づき、今では誰よりも活用している」という話は、その典型です。Web会議は汎用的なツールですが、実際に使ってみて初めて、その価値とインパクトを実感できます。

    木こりの例で言えば、これは「最新のチェーンソーを買うべきだ」と説得するのではなく、「まずは一度、このチェーンソーを試してみませんか?」と評価の機会を提供することに他なりません。

    実際にチェーンソーの圧倒的な効率性を体験した木こりは、あっという間にそれを使いこなし、生産性を劇的に向上させるでしょう。それだけでなく、「もっと軽い方がいい」「こんな刃はどうか」と、チェーンソー自体の改良アイデアまで出すようになるかもしれません。

    道具から本質へ——自社の「競争領域」を見極める

    この「協調領域」での小さな成功体験は、単なる業務効率化に留まらない、より大きな気づきをもたらします。

    木こりは、チェーンソーを手にすることで、自分の本当の価値は「斧を振るう筋力」ではなく、「どの木が価値を持つのかを見極める知識」や「森全体の生態系を理解し、持続可能な伐採計画を立てる知恵」にあると気づくかもしれません。
    道具はあくまで手段であり、競争力の源泉(競争領域)は別の場所にあったのです。

    これは製造業のDXにおいても全く同じです。汎用的なツールやパッケージを導入し、「協調領域」での成功を体験することは、時に「自分たちの頑張りは、もしかしたら的外れだったのかもしれない」という厳しい現実を突きつけるかもしれません。しかし、その痛みを受け入れ、変化を乗り越えた先には、自社の本当の強み、すなわち「競争領域」がより鮮明に見えてくるはずです。

    そしてDXの最終目的は、その「競争領域」をさらに磨き上げ、ITやデジタル技術を駆使して、これまで不可能だった新しい価値を顧客に提供していくことです。それは競争で優位な領域の強化かもしれませんし、逆に弱点だった領域を克服する挑戦かもしれません。

    いま一度、自社に問いかけてみてください。 「木」や「森」の特性のように、貴社のものづくりにおける本当の競争領域はどこにあるのでしょうか? そして、その強みを活かした、新しい価値の提供はできていますか?

    忙しさを理由に斧を研ぐことをやめてしまえば、いずれ木は一本も切れなくなります。今こそ、その手を少しだけ止め、自社の「斧」を見つめ直す時なのかもしれません。

  • 牛の道をDX舗装するとどうなる?

    牛の道をDX舗装するとどうなる?

    ■貴社の現行システムはどのような「牛の道」でしょうか?
    今回は「牛」と「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の話です

    「DX舗装」とは、デラックス舗装ではなく、もちろん「デジタルトランスフォーメーション(DX)」のことです。
    「牛」はアメリカのIT業界の格言である「Don’t pave the cow path(牛の道を舗装するな)」から引用しましたが、少々わかりにくいタイトルになったかもしれません。

    この格言は、昔ボストン市で道路舗装を計画的に行わず、牛が通った跡だけを舗装したために便利にならなかったという話に由来すると言われています(諸説あります)。
    要は、論理的でなく非効率的な道路計画、つまり場当たり的な解決策ではうまくいかない、という意味です。

    日本では約30年前、海外からERPシステムが紹介され、「ベストプラクティス」(最も効率的な方法)を謳い文句に多くの大手企業がシステムを導入しました。
    これは、「現状のシステムは『牛の道』のようなものだから、計画的な舗装道路で効率化を図ろう」という発想が広がった結果かもしれません。

    さて、製造業のさまざまな生産管理システム導入の相談の中には、既存業務(つまり牛の道)の舗装を求める要件も多くあります。

    • これまで通りの帳票出力が必要
    • ここは必ず印鑑が必要
    • この入力画面と同じものが必要

    など、業務面では仕事が特定の人に依存している点も多く、

    • 所要量計算後、必ず〇〇さんの確認が必要
    • この得意先は△△さんの承認を得てから作業する
    • この部材は多めに買うかどうか□□さんに確認する

    といった例が挙げられます。

    こうした点に対し、従来の生産管理システム構築手法では対応が難しくなってきている印象があります。
    つまり、「この問題にはこのツール、あちらには便利なパッケージがある」など、牛の道(カウパス)を舗装する形で部分最適の効果を狙う相談が増えているのです。

    これまでの全社ERPシステムは、トップダウンで全体最適化を目指し、一気に舗装工事を進めてきました。
    しかし、DXでは、上記のようにさまざまな道具を使い分ける発想が必要ではないかと思います。
    つまり、全体の舗装計画は見据えつつ、早期かつ安価にカウパスをDX舗装するツールやデジタル技術が豊富に用意されているからです。

    DX舗装は分断されては意味がありません。連携して初めて「道」と言えます。システム間のつながりが重要なのです。
    もちろん、その中には生産管理システムなどの基幹システムも必要不可欠です。ただし、場合によっては迂回路も必要で、複雑すぎる道は混乱を招きます。

    今回の「牛の道」では、牧草地から牛舎へ帰る牛の群れによってぐちゃぐちゃになっている道のイメージや、先頭の牛に後続が単に連なってのんびり歩くイメージ、もっとも効率的で安全なルートを歩くイメージなど、さまざまな道や牛の姿を思い浮かべたかもしれません。

    さて、貴社の現行システムはどのような「牛の道」でしょうか?
    自社の牛の道に合ったDXの方法がきっとあるはずです。

  • 2025年の中小製造業展望「今年はどうなる?」

    2025年の中小製造業展望「今年はどうなる?」

    中小企業庁長官は、令和7年年頭所感で、

    「日本経済は、足下において企業の賃上げが加速しつつあり、国内投資も30年ぶりの高い水準になるなど、『潮目の変化』ともいうべき兆しが見られています。この変化をしっかりと後押しすることで、デフレ経済から脱却し、成長と分配の好循環が力強く回っていく『賃上げと投資が牽引する成長型経済』へ移行できるのか、まさに今、正念場を迎えています」と述べ、「取引適正化の推進」「生産性向上支援」「成長投資支援」の3つを強力に進めるとしています。

    2025年における中小製造業の外部環境は、多くの要素が絡み合い、複雑化しています。特に人材不足とIT・DX(デジタルトランスフォーメーション)投資に焦点を当て、現状の課題と将来の展望について考えてみたいと思います。

    2025年の経済環境は、依然として不確実性が高いものの、技術革新やグローバル市場の動向が中小製造業に大きな影響を及ぼします。冒頭の所感にあるように、日本政府の新たな政策や規制の変更が、業界全体の動きに影響を与えることも予想されます。

    日本の製造業では、慢性的な人材不足が深刻な問題となっています。特に中小企業では、人材確保が一層困難であり、これが生産性や競争力に直接的な影響を与えています。企業は新しい働き方を模索し、魅力的な労働環境を提供する必要が出てきます。若手経営者の元、新たなスキルや発想をもった若者が、ものづくりの現場で活躍している場面にも出会うことがあります。彼らは、これまでにない発想やスピードで、従来のものづくりとは異なる製品やサービスを立ち上げています。その多くは、ITなどデジタル技術を活用したものです。

    デジタル技術の進化は、製造業に多くのメリットをもたらしています。DX投資は、生産効率の向上、コスト削減、そして新しいビジネスモデルの創出に寄与します。特に、中小企業においては、適切なITシステムの導入が競争力の向上に直結します。

    今後も技術革新は続き、中小製造業に新たなチャンスを提供すると考えられます。特に生成AI(生成型人工知能)の台頭は、製造業に革新をもたらす可能性があります。AI技術を活用することで、業務の自動化や効率化が進み、人材不足の問題を部分的に解決できるでしょう。さらに、生成AIを用いたデータ分析や予測は、経営戦略の高度化にも寄与します。

    人材不足を解消するためには、教育と訓練の充実、働き方改革の推進が必要です。また、IT・DX投資を最大限に活用するためには、適切な計画と実行が不可欠です。中小企業は、自社の強みを活かしつつ、柔軟かつ迅速に対応していくことが求められます。

    2025年も中小製造業は、現状の課題に対処しつつ、技術革新を積極的に取り入れることで、競争力を維持し、さらなる成長を目指すことが必要です。

  • システム導入のモラルハザード

    システム導入のモラルハザード

    基幹システムなどを導入する場合、ユーザーとベンダーがプロジェクトを組み、検討、実施していく場合が多いと思います。

    例えばユーザーは自社の業務は判るが、パッケージについては充分な知識が無い。
    ベンダーは「パッケージソフト」の機能については当然知っているが、ユーザーの業務については充分に把握できていない。
    つまり、システム構築のプロジェクトは「情報の非対称性」があるため、互いに情報を出し合い、目的を達成する必要があるために採用される体制です。

    特に、生産管理システムのソフトは、買っただけでは稼動せず、業務に合った各種設定やマスターを登録したり、各部門の人が操作を覚える必要があり、業務との適合性や運用の定着といった難しい判断を伴います。そのため、多くの場合プロジェク体制を組み。導入を実施していきます。
    スマホでアプリをダウンロードし、使い始める「ソフト」の場合とは大きく異なります。
    大きな違いは、「時間」です。
    前者は半年とか1年以上かかる場合がありますが、後者はせいぜい数分です。
    それから関係者の「数」も違います。
    前者はユーザーとベンダーを合わせると、数十名以上になりますが、後者は基本1人です。
    その上、費用も違います。
    前者は数千万~億。 後者は0円~数百円です。

    また、アプリをダウンロードするスマホでは過程、つまり「プロセス」と言う概念は無いように思います。
    生産管理システムでは、多数の関係者が費用と時間をかける過程、つまり「プロセス」を経て目的を達成します。

    そのプロセスでは、ユーザーはベンダーに「ちゃんとシステムを立ち上げてくれるのか?」とか、ベンダーはユーザーに「ちゃんと使ってもらえるか?」など、「情報の非対称」における「モラルハザード」、すなわち相手の「行動を監視」する時間も含まれていると思います。
    プロジェクトは「共創」でありながら、コミュニケーションの不足などから、実際はこのような事が起っています。

    ここで言うモラルハザードは、道徳心の欠如などの意味ではなく、相手の行動が見えない事による損失(問題)という意味です。

    ユーザーがベンダーを常時監視するには、多大な労力を払わなければならないので、それを最小にする必要があります。
    一般的にはプロジェクト体制を作り、それぞれメンバーに役割を与え、組織図上の上下左右に確認や報告をする体制をとるのだと思います。

    ただ、依頼を受けたベンダー自身も、決められ費用(もらえるお金)以上の仕事を行うと赤字になります。
    そのため予め決めた内容と期間で作業を終える必要があるため、ユーザーが、パッケージをどう使うか、決めてもらう項目や事前に準備するデータなどをやって貰わないと作業が終わらず、稼働に至らなくなります。

    そのため、仕事の依頼をもらいながら、お客様の行動を監視する関係となるなど複雑な関係になりがちです。

    また、システムは、「成果としての品質」として、ものづくり同様QCD(品質・費用・納期)が大事ですが、モラルハザードが起らないよう「プロセスとしての品質」も大事になってきます。

    プロセス品質は、例えば「説明が判りやすいか?」「業務をちゃんと理解しているか?」「課題を共有しているか?」、あるいは
    「進捗報告があるか?」や「マスターを用意する準備はしてくれたか?」「操作を覚える時間を確保してくれたか?」など互いに不信感を抱かないような「質」の事です。
    互いのプロジェクトメンバーが「姿勢や立ち振る舞い」「報告や連絡や相談」を大事して、この監視(費用)を最小にするべきだと思います。
    監視は「システム総費用」となり、ユーザーやベンダー互いの負担増となります。

    アプリのアイコンをタップすれば、説明書もなく利用されていく、操作指導も不要で直感で判る。
    データは手元にあるのか? どこかにあるのか?誰も意識しない。
    もはやクラウドなんて事も言わなくなる場合と比較すると大きな差です。

    そのような環境の中、多数の人を巻き込み、長く使い続けるシステムでさえも、互いの監視費用が極力不要で、モラルハザードを意識しないでよい仕組みが必要だと思います。

    それは、「損失費用(無駄な費用)」は必ず減少方向へ向かうのが常だからです。

  • ものづくりのオリンピック

    ものづくりのオリンピック

    2024年8月12日(日本時間)、パリ2024オリンピックが閉幕しました。アスリートの活躍が連日放送され、日本は海外開催で最多のメダルを獲得しました。

    アスリートは、オリンピックへの参加を大きな目標に日々の練習を行い、各国代表と戦いメダル獲得を狙います。

    さて、近代五輪に比べ歴史は浅いですが、製造業のオリンピック「ものづくり日本大賞」というものをご存じでしょうか? ものづくり日本大賞は、経済産業省が新時代のものづくりに挑戦する個人やグループを表彰するものです。第10回「ものづくり日本大賞」は五輪大会を挟み、10月15日までが応募締切となっています。昨年の第9回「ものづくり日本大賞」の受賞内容を覗いてみると、内閣総理大臣賞2件や経済産業大臣賞12件、その他優秀賞など多数の受賞が発表されています。オリンピックのように金や銀、銅メダルのような感じです。

    表彰の対象となる4つの分野は、

    1. 産業・社会を支えるものづくり
    2. 文化を支えるものづくり
    3. ものづくりを支える高度な技能
    4. ものづくりの将来を担う高度な技術・技能

    特に、1. 産業・社会を支えるものづくりでは、

    • 製造・生産プロセス部門
    • 製品・技術開発部門
    • 伝統技術の応用部門
    • データ利活用による新価値創出部門

    の4部門に分かれており、技術や技能に偏らず、プロセスやビジネスモデル、デジタル技術を用いたITCなどのものづくりも対象です。

    パリオリンピックに参加している一流アスリートを見ていると、競技ごとにその鍛えた筋肉に違いがあることに気づきます。体操選手は首や肩の筋肉、柔道選手は胸筋に目がいきます。マラソン選手の細いながらも鍛えた筋肉は、他競技のアスリートとは違う感じです。

    そして、「ものづくり大賞」の受賞会社も「鍛えた筋肉」が違うように思います。省エネに大きく貢献できる素材研究(という筋肉)で受賞した大手製造業や、現場の実績収集等、製造実行システム(現場力という筋肉)で受賞した中小製造業だったりします。

    経済産業省が発表したDXレポート2では、その中長期戦略として、「協調領域」と「競争領域」に分けて考えることが記載されていました。この「競争領域」は他社と差別化を図る領域ですから、つまり企業としての「筋肉」だと思います。

    「ものづくり大賞」は、他社と競うことをあまり前提としておらず、日々の研究開発や改善活動が結果として受賞につながるという点に違いがあります。ただ、「競争領域」である特異分野や差別化分野に「地道な研究成果の筋肉」や「画期的なアイデアの筋肉」や「新たなビジネスモデルの筋肉」をつけるという意味では同じなのかもしれません。

    ものづくり大賞への応募は比較的シンプルで、以下の2種類の書類で可能です。

    1. 案件の概要資料では、
    • 概要と優れている点(400文字以内)
    • 開発の背景・ストーリー(300文字以内)
    • 製品事例や実用化の時期等(300文字以内)
    • 図や写真等(2点)
    1. 案件の詳細資料では、
    • 社会的課題への対応
    • 革新性
    • 波及効果

    「ものづくり大賞」の受賞効果としては、「社会的信用が向上」「業績の向上」「優秀な人材の確保」「社内の士気向上」などのメダル同様のご褒美があるようです。
    貴社の「筋肉」の状態を文章にして応募してみては如何でしょうか?

  • わが社の工場には、どのようなDX人材が必要か?

    わが社の工場には、どのようなDX人材が必要か?

    仕事上、製造業の組織図を見る機会が多くあります。製造業の組織は、そのほとんどが機能別組織になっています。各部門が特定の業務に特化している構造です。

    例えば、

    – 営業部:製品の販売や顧客対応を行う

    – 設計部:新製品の開発や既存製品の改良を行う

    – 製造部:製品の製造を担当

    – 購買部:原材料や部品の調達を担当

    – 品質管理部:製品の品質を保証し、品質基準を維持する

    – 経理部:財務管理や会計業務を担当

    – 人事部:従業員の採用、教育、労務管理を行う

    – 総務部:会社全体の管理業務をサポートする

    このような組織構造により、各部門が専門性を発揮し、効率的に業務を遂行することができます。

    上記の例には「情報システム部」がありません。実際、中小の製造業で独立して情報システム部を目にすることは多くありません。総務部や経理部の配下に、IT化や情報システム課などを配置している場合が多いのではないでしょうか?製造業では古くは、電算課などと称して、工場の原価計算を中心に組織されていて、今でも事務方と思っている方もいます。

    製造業のDXが叫ばれている中、会社の組織として情報システム部門の位置付けは変化しています。中堅以上では独立化した組織として、または経営企画室の配下に組織している会社もあります。一方、中小の製造業では、「ひとり情シス」と揶揄され、組織上に記載もなく、工場のホストを一人で面倒みている方も多くいらっしゃいます。

    皆様方の工場では、どうでしょうか?

    2024年7月25日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX動向2024 – 深刻化するDXを推進する人材不足と課題」では、日本企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進において、深刻な人材不足が課題となっていることが示されています。組織名があったとしても、その中の人材は別の話です。

    特に、ビジネスアーキテクトやデータサイエンティストなどの専門人材の不足が顕著であり、これがDX推進のボトルネックになっているとレポートしています。アーキテクトやサイエンティストと言われても、ピンとこないし、自社には関係ないと思われるかもしれません。

    この中では必要な人材は、大きく5つに分け紹介されています。聞きなれない名称をキーにするのではなく、役割を中心に見ていきましょう。

    1. DXの取組み(新規事業開発/既存事業の高度化/社内業務の高度化、効率化)において、目的設定から導入、導入後の効果検証までを、関係者をコーディネートしながら一気通貫して推進する人材

       ーーーこのような人材は多くは居ないと思います。会社全体の経営を見据え、設計を行うわけなので、「ビジネスアーキテクト」と呼んでいます。

    2. ビジネスの視点、顧客・ユーザーの視点等を総合的にとらえ、製品・サービスの方針や開発のプロセスを策定し、それらに沿った製品・サービスのありかたのデザインを担う人材

       ーーー従来であればオールマイティーの工場長をイメージします。青写真構想と呼んでもよいかもしれません。この役割を「デザイナー」と呼んでいます。

    3. DXの推進において、データを活用した業務変革や新規ビジネスの実現に向けて、データを収集・解析する仕組みの設計・実装・運用を担う人材

       ーーー現状の情報システム部門での役割のように思えますが、ここではDXの推進においてとあるように、データを集計するだけではなく、活用することが主になります。これは「データサイエンティスト」と呼びます。

    4. DXの推進において、デジタル技術を活用した製品・サービスを提供するためのシステムやソフトウェアの設計・実装・運用を担う人材

       ーーー現状の情報システム部門の役割のようですが、このような人材は比較的多いのではないでしょうか?この役割を「ソフトウェアエンジニア」と呼んでいます。

    5. 業務プロセスを支えるデジタル環境におけるサイバーセキュリティリスクの影響を抑制する対策を担う人材

       ーーーこの分野の人材は不足しています。常に最新のテクノロジー動向や知見が必要になります。「サイバーセキュリティ」と呼びます。

    さて、皆様の工場にいる人材はどのような方で、不足している人材はどのような方でしょうか?調査結果によると、自社に必要なDX人材の定義や評価基準を持たない企業では、人材不足がより顕著であることが指摘されています。

    まずは、必要なDX人材の定義や評価基準を持ち、自社育成や外部補完などから、会社としての組織に組み入れることを考えてはどうでしょうか?

  • 製造業「DX」と「CX」は何が違うのか?

    製造業「DX」と「CX」は何が違うのか?

     2024年5月31日 2024年版ものづくり白書(製造基盤白書)が発表されました。
    この白書は、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が「ものづくり基盤技術振興基本法」に基づき毎年作成されます。
    ものづくり業況などのデータ分析や課題、政府の取込や施策が、経済面、労働面、教育面から整理された資料となっています。
     今年度版は、
    「国内投資の重要性が高まっている中、海外市場で稼ぎ連結ベースで過去最高益を更新する企業が多くあるものの、利益率は低水準となっている。」「理由としては、グローバルビジネスに適した経営の仕組みを整えてこなかったことが挙げられる」
    「DXも個別工程のカイゼンにとどまり、事業機会の拡大領域の取組が少ない等、稼ぐ力の向上に繋がっていない」
    と分析しています。
    そして、
    「CXによる組織経営の仕組み化」と「DXによる製造機能の全体最適化、ビジネスモデルの変革」が必要であると結んでいます。
    では、製造業のDXとCXとはどのような関係があり、違いがあるのでしょうか?
    製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、ご存じの通り、ITを利活用して、例えばリードタイム短縮、生産性向上、品質向上を実現し、ビジネスモデルの変革を目指す事を言います。 変革は単なる効率化とは違い、新たな製品やサービスの創出までを含めた考え方です。
    では、CX(コーポレートトランスフォーメーション)とは何でしょうか? 
    CXは、従来の階層的な組織構造を扁平化し、意思決定の迅速化や革新的なアイデアの促進を目指す事と言われています。 
    ここで言う「扁平」とは、平らで階層がないフラットな組織のイメージです。
    例えば、製造工程の実績や進捗をリアルタイムに収集したとしても、それを受けて、次の指示を出す役割などの組織が作られていない場合、効果は限定的です。そのため、従来の組織からアジャイルに活動できる組織へ変える事で効果を高める事ができます。
    確かに企業から受領する提案依頼書(RFP)には、組織の変更や変革が記載されている事はあまりありません。
    多くは現状の組織のまま、デジタライゼーションやデジタルトランスフォーメーションを行う事が記載されいます。
    要件にCXは考慮されていない印象です。
    CXとDXは共に、企業の変革を促進するための手法です。
    CXは、組織全体の文化、戦略、プロセス、構造の変革を意味し、DXは、デジタル技術を活用してビジネスモデルやプロセスを改革することを指します。
    しかし、
    製造業においてDXとCXは、相互に関連しています。
    CXによって組織の体制が柔軟化されることで、DXの導入が容易になります。
    そして、DXによって得られたデジタル化された情報やデータを活用することで、組織の変革を推進することができます。
    つまり、相互に影響を与えます。
    2024年版ものづくり白書では、「CXによる組織経営の仕組み化」と「DXによる製造機能の全体最適化、ビジネスモデルの変革」は、「CX」×「DX」と掛け算による式で示されています。
    製造現場は変化を嫌います。 品質や納期へ影響を第一に心配や不安が増すからです。
    もちろん、硬直的な組織は弊害もあります。それらを考慮し現状の組織構造を振り返り、あるべき姿を考えてよいかなと思います。

  • 新NISAタイプとヒューマンインザループ

    新NISAタイプとヒューマンインザループ

     産労総合研究所によると、2024年度の新社会人は、「セレクト上手な新NISAタイプ」と称されています。
    デジタルに慣れ親しんでいる一方で、対面コミュニケーションの経験が乏しく、異世代とのコミュニケーションに戸惑う傾向があるからだそうです。
    また、彼らは目標を明確に定め、情報を選択して自分の道を歩み始めることが特徴とされています。
    就職活動や職場での振る舞いにおいても、このような特性が見られるとのことです。

     それではこのようなタイプは、人間とAIが協力して仕事をこなしていく事はどうなのでしょうか?
    AIを「異世代」と定義すれば、AIとのコミュニケーションに戸惑う事になりますが、セレクト上手と考えるとAIの判断をうまく評価してくれそうな気がします。

     人間とAIが協力してタスクを遂行するシステムのことを、ヒューマンインザループ(Human-in-the-Loop、HitL)」といいます。
    AIが自動化できない複雑な判断や、倫理的な決定を必要とする場面で人間が介入し、AIの判断を監視、修正、または指導する役割を担う事をいいます。
    たとえば、医療診断を行う場合、AIは多くの画像を迅速に分析できますが、最終的な診断には医師の専門知識と経験が必要とされるため、このようなHitLのアプローチが採用されているようです。

     ヒューマンインザループの考え方を、生産管理システムの更新に適用する場合、どのような事があげられるでしょうか?
    たとえば、導入時の要件定義フェーズでは、どの判断を人間が行い、どのプロセスを自動化するかのバランスを見つけることが考えられます。
    管理者や作業者とのコミュニケーションを通じて、人間の判断が必要な領域を特定し、それらをシステム設計に反映させることが必要です。

     新たな生産管理システムの運用においては、人的判断をどのレベルで組み込むかがポイントです。
    人的判断を排除しすぎると、予期せぬ状況に対応できなくなる可能性がありますが、逆に過度に依存すると効率が低下します。
    システムの目的や業務の性質を考慮し、運用フェーズでの人的介入の必要性を考えなければなりません。
    また、運用中に得られるデータを活用して、人的判断のレベルを適宜調整することも有効だと思われます。

    いずれも、システムの柔軟性と人間の判断力をバランス良く組み合わせることが、成功への鍵となるでしょう。

    生産管理システム機能の具体例では、資材所要量計算(MRPの演算ロジック)の処理結果に人的判断を組み込むかどうかを検討する際には、以下のアプローチが考えられます。

    1. 現場の知識と経験の活用
      MRPシステムは、在庫データやマスタと処理ロジックに基づいて資材の必要量を計算しますが、管理者や現場の作業者はその日々の変動や特異な状況を理解しています。
      彼らの知識と経験を活用して、システムが提案する必要量をを補完することが重要です。
    2. 予測の不確実性管理
      MRPは予測に基づいていますが、市場の変動や供給の不確実性など、予測できない要素が常に存在します。
      得意先や営業のフォーキャストをどう判断し取り入れるか、または信頼するか、不確実性を管理しより柔軟な対応が必要です。
    3. 例外状況への対応
      MRP処理ロジックは通常の運用においては効率的ですが、例外的な状況や緊急事態には対応が難しい場合があります。
      半導体や資材不足の局面では、在庫をどれだけ余分に持てるかが課題になりました。
      人的判断を組み込むことで、これらの状況に迅速かつ適切に対応できるようになります。
    4. 連続的な改善プロセス
      MRPの結果に対する人的レビューを定期的に行うことで、システムの精度を向上させることができます。
      また、新しい市場の動向や技術の進歩をシステムに反映させるためには、人的判断が必要です。

    このように、MRPの処理結果に人的判断を組み込むかどうかを検討し、システムの提案と現場の実情とをバランス良く組み合わせることが、効果的な生産管理システムを構築する鍵となります。

    新社会人の方も、これら人的判断ができる仕事も目指して欲しいものです。

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